今回のテーマは、緑内障治療の1つである「SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)」についてです。
緑内障は視力を奪う危険な病気ですが、早期発見と適切な治療が視力を守る鍵となります。
その治療において最も重要なのが「眼圧を下げる」こと。これまで目薬や手術が主流でしたが、近年注目を集めているのが、合併症の心配がほぼなく、短時間で行える**SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)**です。
この記事では、SLTの仕組みや効果、他の治療法との比較、費用・保険適用の有無、術後のケアやメリット・デメリットまで、初期治療としても有効な最新の緑内障レーザー治療について詳しく解説します。
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緑内障とは?
緑内障とは、眼圧が上がり、視神経にダメージを与えて視力が低下する病気です。眼圧が高くなる原因は「房水」という目の中の水分が正常に排出されず、目の中に溜まるためです。この房水の排出を促進し、眼圧を下げることが、緑内障の治療の基本になります。
緑内障の治療法には主に3つの方法があります。
- 目薬…房水の生成を抑制したり、排出を促進したりします。
- レーザー治療…房水の流れを改善するためにレーザーを使用します。
- 手術…眼圧を大幅に下げる必要がある場合に行います。
今回はこの中でも「レーザー治療」SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)についてお話していきます。
SLTとは?その仕組み
SLT(Selective Laser Trabeculoplasty:選択的レーザー線維柱帯形成術)は、緑内障の治療法の一つで、レーザーを用いて房水の流れを改善し、眼圧を下げる治療です。緑内障は、目の中の液体である「房水」が十分に排出されないために、眼圧が上昇して視神経がダメージを受ける病気です。



SLTは、房水が排出される「線維柱帯」という部分にレーザーを照射し、目詰まりした排水路をクリアにすることで、自然な流れを取り戻します。シンクの排水溝に詰まったゴミを掃除するイメージで、余分な圧力を解消する仕組みです。
SLTのメリットと特徴
緑内障治療といえば、点眼薬が最初に処方されるイメージが強いかもしれません。ところが、SLTは合併症がほぼなく、リスクの少ない治療法であるため、近年では初期治療としてSLTを選択する流れが世界的に広がっています。
SLTの最大のメリットは、合併症や副作用がほとんどない点です。そのため、初期治療としても安全に使用できます。
さらに、治療時間も片眼で5分程度と短く、痛みもほとんどありません。外来治療としてその場で受けることができ、入院の必要もありません。
また、SLTは目薬治療や手術の前段階で行うことが多く、特に初期から中期の緑内障患者さんに適しています。
レーザー治療を行った後、眼圧が数年にわたって安定することが期待できますが、効果が薄れてきた場合は再度SLTを行うことも可能です。
SLTを受けるタイミング
アメリカなどでは、緑内障と診断された初期段階で「まずSLTをやってみましょう」というケースも増えています。もちろん、点眼薬から始めて、その後2剤目や3剤目に移行するタイミングでSLTを導入することも可能です。
目薬を1剤使った後にSLTを行う場合もあります。
特に、目薬を毎日使うのが難しい方にとっては、SLTは効果的な選択肢となるでしょう。SLTの効果は一般的に2〜5年続き、その後再度レーザー治療を受けることも可能です。
緑内障点眼の種類については以下のページを参考にしてください。

SLTのデメリットやリスク
SLTはリスクが非常に低い治療法ですが、全ての緑内障患者さんに適用できるわけではありません。
例えば、「閉塞隅角緑内障」というタイプの緑内障では、目の構造的にレーザーを照射できない場合があります。詳しくは以下のリンクを参考にしてください。

また、治療費は保険適用であっても片眼あたり1万円以上かかることが一般的です。しかし、目薬を長期間使用し続けるコストと比較すると、長期的にはコストパフォーマンスが高い治療法と言えるでしょう。
SLT治療の流れと所要時間
SLTは外来で行える短時間のレーザー治療です。
- 治療は片眼あたり数分程度で終了します。
- ベッドに横たわる必要はなく、眼科の診察台で顎を乗せて固定し、レーザーを「ピッピッ」と打っていくイメージです。
- 痛みは軽度で、「チクッ」と感じる程度。多くの患者さんが我慢できるレベルで、入院は不要です。
終了後は特に大きな制約もなく、当日から普段通りの生活が可能です。髪を洗ったり、コンタクトをつけたりといった日常行為にも支障がありません。
SLTの効果と再治療の可能性
SLTを受けると、多くの場合、眼圧がしっかりと下がります。
治療の効果は個人差がありますが、一般的には2〜5年の間眼圧が安定します。
しかし、再度目詰まりが起こる場合もあるため、その際には再治療が必要になります。
再治療は、半年以上の間隔を空ければ問題なく行えます。
副作用・合併症はほぼゼロ!
SLTが注目される最大の理由は、その「安全性」です。
他の治療法に比べ、合併症リスクが極めて低く、術後の制約もほとんどありません。
軽度な炎症やチクチク感が1週間程度続くことがあるものの、深刻な副作用や後遺症はほぼ見られません。
あえてデメリットを挙げるとすれば、再度詰まりが起きる可能性があることや、無制限に繰り返せるわけではない点です。しかし、他の緑内障手術や点眼薬による副作用と比べれば、はるかに低リスクな選択肢といえます。
適応となる緑内障患者


緑内障には大きく分けて「開放隅角緑内障」と「閉塞隅角緑内障」があります。
SLTは基本的に「開放隅角緑内障」の患者さんが対象です。
日本人の多くは開放隅角緑内障のタイプであり、これらの患者さんの多くがSLTの恩恵を受けられます。
さらに、白内障手術後に空間が広くなることで線維柱帯が見やすくなり、SLTの適応がより良くなるケースもあります。
「閉塞隅角緑内障」の患者さんには、「SLTレーザー」ではなく「LIレーザー」が適応となります。
閉塞隅角緑内障の患者さんへの適応となる「LIレーザー」に関して詳しくは以下の記事をご覧ください。
また、緑内障の種類や原因について詳しくは以下の記事をご覧ください。

他の緑内障治療との違い
緑内障の治療は、主に「点眼薬」「レーザー治療」「手術」の3本柱で進められます。
- 点眼薬…毎日欠かさず使用する必要があり、忘れると眼圧が上がるリスクがあります。また、長期的な費用負担や副作用(目の充血、痒みなど)が気になる点も。
- 手術…確実に眼圧を下げる効果が期待できますが、侵襲が大きく入院や術後の安静期間が必要。また、合併症リスクもゼロではありません。
- SLT…手術ほど大がかりではなく、点眼薬のような毎日の手間もありません。短時間でほぼリスクなし、ダウンタイムもほとんどないため、非常にバランスの良い治療といえます。
保険適用や費用について
SLTは保険適用のある治療で、自己負担は医療保険の負担割合によって変動します。
例えば1割負担であれば約1万円、3割負担なら約3万円程度の出費が目安です。
決して安価とは言えませんが、点眼薬を長期使用するコストや管理の手間を考えれば、SLTによる時間・労力・費用のバランスは悪くありません。
SLTは目薬不要になるのか?
SLTを行うと、眼圧が十分下がり、点眼薬を減らせるケースもあります。
ただし、医師としては失明予防を最優先するため、十分下がったとしても「あえて点眼を続けて眼圧をより低くキープする」という判断をすることもあります。
目薬を中止できるかどうかは、患者さんの状況や医師の方針次第。
日々の点眼が負担である方、忙しくて忘れがちな方には、SLTは大きな福音となるでしょう。
まとめ
SLTは、緑内障治療の中でも非常に安全で効果的な治療法です。初期から中期の緑内障に適しており、合併症がほとんどないため、リスクを最小限に抑えたい患者さんに特に向いています。
治療費はかかりますが、日々の目薬使用を軽減できる点や長期的な視力保護を考慮すると、非常に価値のある治療法です。
緑内障と診断されたら、ぜひ医師と相談し、SLTが適しているかどうか確認してみてください。
下記youtube動画では年間3万人以上の患者を診察している院長の上月が、対談形式でわかりやすく説明しておりますのでぜひ合わせてご覧ください。
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