老眼という言葉は、多くの方にとって身近な存在かもしれません。
「スマホが見えづらい」「小さい文字が読みにくい」……40代を過ぎた頃から、こうした変化を感じ始める方も少なくありません。
老眼は「老」という字が付くため、加齢にともなう自然現象のようにも思われますが、実際はどのような仕組みで起こり、どんな対策があるのでしょうか。
また、近視の人は老眼になりにくいという話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。あるいは、老眼になると近視は治るという話など。
本記事では、眼科医が語る老眼の原因やメカニズム、近視や遠視との違い、治療法や予防策、さらに白内障との関連まで詳しく解説します。年齢を重ねると誰しもが体験する老眼について、正しい知識を身につけ、上手に向き合いましょう。
下記のYouTube動画では、年間3万人以上を診察する眼科専門医の上月が対談形式で、最新の治療法をわかりやすく説明しています。治療に対する理解を深めるために、ぜひ合わせてご覧ください。
老眼とは
老眼は、年齢とともに「手元のものが見えづらくなる」現象です。
とくに40代半ば頃から「近くにピントが合いにくい」「スマホの文字がぼやける」などの自覚症状が増え、いわゆる「老眼かな?」と気付き始める方が多くなります。
一見すると「視力が落ちる」ことと混同されがちですが、老眼はどちらかというと「調節力の低下」が本質的な原因です。
調節力の低下とは、簡単に言うと(遠くから近くへの)ピントが合う範囲が狭まる現象と考えてください。
ではなぜピントが合う範囲が狭まるのでしょうか。それは、近くを見るためには、水晶体を分厚くして屈折力を上げる必要がありますが、年齢を重ねると、分厚くする動きがスムーズにいかなくなってしまいます。これを老眼と言います。
老眼の原因とメカニズム
老眼の大きな要因は、水晶体の硬化です。
若い頃は柔軟だった水晶体が、加齢によって徐々に硬くなり、調節力を失っていきます。
もともと人間の目は、「遠くを見るときは水晶体を薄く、近くを見るときは水晶体を厚くする」という仕組みによってピントを合わせています。これを担うのが毛様体筋(または毛様筋)で、筋肉が収縮することで水晶体の厚みを調整しているわけです。
近くを見るときの仕組み https://ajoc.or.jp/how-it-works/ AJOC「目の仕組みとはたらき」より引用
しかし、水晶体が硬くなると、毛様体筋が頑張っても水晶体を分厚くしきれないため、近くに焦点を合わせる能力が低下してしまいます。
その結果、「近くの小さい文字が読みにくい」「手元の作業がつらい」といった老眼の症状が現れます。
老眼と近視・遠視との違い
「もともと近視だから老眼にならない」「遠視の人は老眼が早い」などとよく言われますが、厳密には「老眼になる・ならない」ではなく、「老眼を自覚しやすいかどうか」の違いです。
- 近視:もともと手元に焦点が合いやすい。中等度以上の近視なら、メガネを外すと近くがよく見えるため、老眼になっても発見が遅れがち。
- 遠視:もともと遠くにピントを合わせやすい。近くに焦点を合わせる際に苦労しやすいため、比較的早い段階で「手元が見づらい」と老眼を強く感じる+。
近視や遠視の有無に関わらず、水晶体の硬化による調節力の低下は全員に起こります。大切なのは、「自分の視力タイプ × 老眼」という組み合わせを理解し、必要に応じてメガネやコンタクトでうまく補正することです。
「よく見える範囲が狭くなる」のが老眼のため、近視の人は老眼になったと感じにくいのです。
近視の人は老眼になりにくいと言われる理由を画像で解説
“「もともと近視だから老眼にならない」「遠視の人は老眼が早い」などとよく言われますが、厳密には「老眼になる・ならない」ではなく、「老眼を自覚しやすいかどうか」”と言いましたが、図にてもう少し詳しく説明します。
例えば、メガネを使わずに視力が1.2以上ある人の場合が一番見えるところは遠くになります。
近くを見ようとするときは勝手に目の中のレンズが膨らんでピントを合わせてくれるため、下記の画像のように近くも遠くもよく見えます。

しかし、老眼になることで近くを見ようとするときに勝手に目の中のレンズが膨らんでピントを合わせてくれる機能が低下します。
そのため、少しずつ近くが見えにくくなっていきます。

このため目のよい人は老眼を自覚しやすく、これが「老眼になりやすい」と言われる理由になります。
次に老眼になりにくいと言われる近視の方を見ていきます。
メガネなどを使うと1.2以上見えるが、メガネがないと視力が0.1程度の人の近視の方を見ていきます。
近視の方は、そもそも自然にピントが合う場所が近くになるため、遠くを見るためにはメガネやコンタクトレンズが必要になります。
逆に、自然な状態で近くが見えているため、目の中のレンズをふくらませる必要がないことが多いです。

老眼になると、近くを見ようとするときに勝手に目の中のレンズが膨らんでピントを合わせてくれる機能が低下しますが、近視の人は、目の中のレンズが膨らまなくても、近くにピントが合っています。

近視の方でも年齢を重ねると「老眼=目の中のレンズは膨らみにくい状態」にはなるのですが、以上の理由から近視の方、目が悪いと言われる方は「老眼になりにくい」と言われます。
もちろん実際は近視の方も遠視の方も老眼にはなっていますので、近視の方が「遠くがよく見えるメガネ」をかけた場合などは、近くが見えにくくなるため、老眼を自覚できるかと思います。
老眼になると近視は治るのか?
老眼になったという理由で、近視は治りません。
もともと近視の場合、若いころは遠くを見るときにメガネが必要だったり、外すと近くがよく見えたりするという体験をします。
加齢とともに、近くにピントを合わせる力(調節力)が低下し、近くのものが見づらくなる「老眼(調節力の低下)」が始まります。
軽度の近視の方は、老眼が進んでも近くを見るときは「メガネを外せば読める」という状態が続くことが多いです。それが「近視が治ったように感じる」要因の一つです。
また、もともと近視が強い場合でも、遠く用の度数を弱めたメガネを使うようになり、「前より度が軽くなった」=「近視が治った」と混同しやすいという可能性があります。
これらの要因から、「老眼になると近視が自然に治る」という誤解が生まれていると考えられます。
「度数が変わった」=「近視が治った」わけではない
加齢とともに、角膜や水晶体の形状変化などによってわずかに度数が変わることがあります。
しかし、それは近視自体が消えた(治った)のではなく、あくまで眼の屈折状態がわずかに変動しているだけです。
「近視が治った」と思い込んで放置すると、目の疲れや見えづらさの原因となる場合があるため、定期的に眼科検診を受けて頂きたいと思います。
老眼を感じ始める年齢と症状
老眼は30歳から始まると言われていますが、一般的には40代半ばから「老眼かな?」と自覚し始める人が増えてきます。
特に「スマホの文字が読みにくい」「新聞や雑誌の小さな文字がはっきり見えない」といった症状で、眼科を受診されることも多いです。
ただし、老眼が進行するスピードは個人差が大きく、一気に悪化するわけではなく、ゆるやかに進むのが特徴です。
- 40代:焦点距離が少しずつ遠ざかり、スマホを見たり本を読むときに「少し離して読むと楽」という変化を感じる。
- 50代:手元40〜50cmあたりがややつらくなり、メガネや老眼鏡を必要とすることが多くなる。
- 60代以降:水晶体の硬化が進み、手元どころかやや離れた距離でもぼやけることが増える。白内障の兆候が出始める人も多い。
老眼の対策について
老眼鏡

もっともシンプルで即効性のある対策は、老眼鏡です。手元を見る際に必要な度数(プラスレンズ)を入れることで、調節力を補完し、はっきりと近くを見えるようにしてくれます。
「上は遠く用・下は近く用」と分かれている遠近両用メガネ、あるいは中間距離にも対応する中近両用メガネなど、複数の選択肢があり、日常生活や仕事の内容に合わせて選べます。
多焦点のコンタクトレンズ
コンタクトユーザー向けには、多焦点コンタクトレンズという選択肢もあります。ただし、従来型コンタクトより装用感や見え方が若干変わり、慣れが必要な面もあるため、期待したほどはっきり見えないと感じることがあるのが実情です。
眼科で老眼は治るのか?多焦点眼内レンズについて
白内障手術と多焦点眼内レンズ
老眼は、目の中にある水晶体と呼ばれるレンズの働きをする場所が固くなり、膨らみづらくなることで起こります。
眼科での老眼治療では、この固くなった水晶体を人工の「多焦点眼内レンズ」に置き換えることで治療します。
多焦点眼内レンズは水晶体のように柔軟に膨らむことはできませんが、特殊な構造により遠方・中間・近方までピントを合わせられるよう設計されています。そのため、多焦点眼内レンズを入れると老眼の治療になるだけではなく、近視や遠視の治療にもなると言えます。
もともと白内障の進行で視力が低下したとき、手術で水晶体を人工レンズに置き換えますが、その際に多焦点眼内レンズを選ぶことで、老眼による見づらさを軽減する効果が期待できます。
※白内障も、老眼と同じで年齢を重ねるとすべての人に起こる症状です。白内障の平均年齢についてはこちらをご覧ください。
近年は多焦点眼内レンズのクオリティも向上し、メガネ無しで遠くも近くも見たい方には有力な選択肢です。
ただし、若い年代で白内障がほとんど進行していない場合は白内障手術自体がもったいないという面もあるため、「多焦点眼内レンズ」を取り扱っている眼科でしっかりカウンセリングを受け、納得した上で選択することが重要です。
多焦点眼内レンズについては以下の記事などでぜひ御覧ください。
老眼を予防できるのか

老眼は加齢による水晶体の硬化が原因ですので、残念ながら「予防薬」や「体操」で根本的に進行を止めることは難しいと考えられています。
一部では、「目を酷使しすぎると老眼が早まる」「抗酸化物質を摂ると進行が遅れる」といった説がありますが、科学的に決定的な根拠があるわけではありません。
とはいえ、全身的なアンチエイジングケア(バランスの良い食事や適度な運動、十分な休息など)は、目だけでなく身体全体の健康に寄与します。日常生活で健康的な習慣を心がけることは、有害とは言えませんので、トータルな健康管理として取り組むのもよいでしょう。
老眼との上手な付き合い方
老眼は決して特殊な病気ではなく、誰しもが通る生理的変化です。無理に「若い頃の視力」を取り戻そうとするよりも、
- 適切な度数の老眼鏡を利用する
- コンタクトレンズとの併用を考える
- 白内障が進んできたら多焦点眼内レンズを検討する
といった柔軟な対応が大切です。
また、「ただの老眼だと思っていたら、実は別の目の病気が潜んでいた」というケースもあります。思った以上に見づらさが強い場合や、急激に視力が変化する場合などは、早めに眼科を受診して精密検査を受けるようにしましょう。
まとめ
- 老眼は加齢による水晶体の硬化で調節力が低下し、手元のピントが合いにくくなる現象。
- 40代半ば頃から症状を自覚する方が多く、スマホや新聞の文字が見づらくなることで気付きやすい。
- 近視・遠視の有無にかかわらず、全員が老眼になるが、自覚のしやすさには個人差がある。
- 老眼鏡や多焦点コンタクト、さらには白内障手術の際に多焦点眼内レンズを選ぶ方法がある。
- 老眼そのものの予防は難しいが、生活習慣の改善や定期的な眼科検診がトラブル早期発見に役立つ。
結局のところ、老眼は多くの方が経験する自然な変化です。しかし、自分のライフスタイルや視力の悩みに合わせた工夫をすれば、快適に過ごすことは十分可能です。「最近、手元が見づらい」と感じたら、遠慮なく眼科を受診し、単なる老眼かどうかの確認や、適したメガネ・コンタクトの処方などを受けると安心でしょう。
無理に視界を我慢して暮らすより、適切な補助具を使ってスッキリ見える世界を保つ方が、生活の質(QOL)は格段に向上します。どうぞ上手に老眼と付き合って、より快適な毎日をお送りください。
もしも「多焦点眼内レンズで老眼を治す治療」が気になる場合、お近くで「白内障手術を行っており、多焦点眼内レンズを選べる」眼科クリニックで相談してみてください。
医療法人社団慶月会では、患者さんに寄り添い、生活スタイルを詳しくお伺いした上で、より適切な眼内レンズをご提案させて頂いています。
また、実際の手術は白内障手術はもちろんのこと、硝子体手術という難しい手術を専門で行っている医師が行います。
当法人は経堂こうづき眼科と王子さくら眼科、2院展開しておりますので、ご来院しやすい方にお越しください。
経堂こうづき眼科
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