目の奥には、網膜という大切な組織があり、ここで視覚情報が電気信号に変換され脳へと伝わります。この網膜を養う血管は、動脈と静脈からなり、そのうち静脈が詰まってしまう状態を「網膜静脈閉塞症(RVO:Retinal Vein Occlusion)」と呼びます。RVOには、大きく分けて網膜中心静脈閉塞症(CRVO)と網膜分枝静脈閉塞症(BRVO)の2種類があります。
本記事では、RVO(網膜静脈閉塞症)の基礎知識から、BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)とBRVO(網膜分枝静脈閉塞症)の具体的な違い、近年注目される抗VEGF治療(アイリーア、ルセンティス、バビースモ)やレーザー治療の最新対策などを詳しく解説します。視力回復につなげるための治療戦略や、生活上の注意点まで網羅的な情報をお届けします。
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1. 網膜静脈閉塞症(RVO)とは何か?
網膜静脈閉塞症(RVO)は、網膜を流れる静脈が何らかの要因で詰まり、血液がうまく流れなくなる病気です。血管が詰まると、網膜内に出血や浮腫(むくみ)が生じ、視力低下や視野欠損などさまざまな症状を引き起こします。全身の動脈硬化や血液ドロドロ状態などが関与し、眼だけでなく全身疾患への警告サインにもなり得る重要な病気です。

RVOは大きく2種類に分かれます。
- BRVO(網膜分枝静脈閉塞症):網膜静脈が分岐した末梢部分で詰まる
- CRVO(網膜中心静脈閉塞症):網膜中心にある太い静脈が詰まる
一般的に、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)はより重症で視力へのダメージが大きいとされます。

2. BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)とCRVO(網膜中心静脈閉塞症)の違い
BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)は、分枝静脈が閉塞しているため、網膜のごく一部が障害されることが多いです。そのため、症状が軽度で発見が遅れがちなケースもあり、時には検診で偶然見つかることもあります。
一方、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)は、網膜中心静脈が詰まってしまうため、網膜全域に出血や虚血(血液不足)状態が及び、著しい視力低下を伴いやすいです。治療を行っても、最終的な視力が十分戻らないケースも珍しくありません。
- BRVO(網膜分枝静脈閉塞症):軽度~中等度の視力低下、局所的な出血・むくみ
- CRVO(網膜中心静脈閉塞症):広範な出血、強い視力低下、失明リスクも高い

3. 網膜静脈閉塞症の原因とリスク要因
網膜静脈閉塞症は血管閉塞が原因ですが、その背景には全身性の血管病変が関与します。典型的なリスク要因には以下が挙げられます。
- 高血圧:動脈硬化を促進し、血管を圧迫
- 高脂血症・糖尿病:血液の粘度が上がり血管閉塞を招く
- 喫煙・不適切な食生活:血管障害を悪化させる
- 加齢:年齢と共に血管が弱くなり、詰まりやすくなる
目の血管状態は脳や心臓など他の臓器の血管状態とも関連することが知られています。網膜静脈閉塞症は「目の中の小さな脳梗塞」とも言えるため、全身的な疾患の前触れと考え、生活習慣の見直しが重要です。

4. BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)の症状・検査・治療法
症状

BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)は、網膜の限られたエリアで静脈が詰まるため、症状が軽く、気付かないこともあります。典型的には、
- 視野の一部がかすむ
- ものが歪んで見える
- 健康診断の眼底写真で偶然発見
中心部(黄斑)にむくみ(黄斑浮腫)が生じると視力低下やゆがみが顕著になり、受診のきっかけになります。
検査

眼科医は、眼底検査で網膜内出血の特徴(火炎状出血)を目視で確認します。OCT(光干渉断層計)を用いれば、黄斑部のむくみを詳細に評価可能です。必要に応じて、蛍光眼底造影(フルオレセイン造影)を行い、どの範囲の血流が滞っているかを精査します。ただし、軽度BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)では造影検査を省略する場合もあります。
治療

抗VEGF注射(アイリーア、ルセンティス、そして最近ではバビースモも適用)はBRVO(網膜分枝静脈閉塞症)での黄斑浮腫治療の第一選択肢です。これにより、むくみが劇的に改善し、早ければ翌日には視力回復がみられることもあります。
更に詳しくは以下の記事を参考にしてください。

必要に応じて、レーザー治療で無血管領域を焼灼し、新生血管が形成されるのを防ぎます。
ステロイド注射による浮腫改善も場合によっては選択肢に入ります。
多くのBRVO(網膜分枝静脈閉塞症)は適切な治療で視力が回復し、失明に至る可能性は低めと考えられます。
5. CRVO(網膜中心静脈閉塞症)の症状・検査・治療法
症状
CRVO(網膜中心静脈閉塞症)は網膜中心部の静脈が詰まるため、網膜全域で血流が滞ります。網膜全体に火炎状出血と呼ばれる状態が見られ、黄斑浮腫がほぼ確実に発生し、強い視力低下が急速に進行します。
- 視界が急に悪くなる
- 大部分の視野がかすむ、ゆがむ
BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)とは異なり、「気付かない」まま放置というケースは稀です。
検査
CRVO(網膜中心静脈閉塞症)はより重症で、無血管領域が広範囲に及ぶ可能性が高いため、フルオレセイン造影を行い、血流停止領域を詳しく調べることがしばしば必要です。OCTで網膜の浮腫状態を確認し、状況に応じて繰り返し検査を実施します。
治療
CRVO(網膜中心静脈閉塞症)では抗VEGF注射が有効ですが、BRVOに比べて改善が得られにくく、注射を複数回行う必要が出ることが多いです。網膜全域がダメージを受けている場合、レーザー治療を広範囲に施行することもあります。これにより新生血管発生を抑え、さらなる悪化を防ぎます。

しかし、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)は重症度が高く、最終的な視力改善が限定的になることも少なくありません。視力0.1~0.2程度までしか回復しないケースも想定されます。
6. 抗VEGF注射(アイリーア・ルセンティス・バビースモ)の効果
RVO治療の中核をなすのが抗VEGF薬の硝子体内注射です。VEGF(血管内皮増殖因子)は網膜虚血状態で多量に産生され、新生血管や網膜浮腫を引き起こします。抗VEGF薬でVEGFを抑えると、
- 網膜浮腫が軽減
- 視力回復の可能性が高まる
- 新生血管発生リスク低減
BRVOではとくに速やかな効果が期待でき、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)でも症状悪化防止に重要な役割を果たします。
代表的な薬剤は以下になります。
- アイリーア
- ルセンティス
- バビースモ(新規薬剤としてBRVOの適用あり)
更に詳しくは以下の記事を参考にしてください。

7. レーザー治療の役割
レーザー治療は、虚血状態に陥った網膜を「焼き切る」ことで、新生血管が発生する刺激(VEGF産生)を抑える治療です。網膜を一部犠牲にしますが、増殖膜症や新生血管緑内障などの重篤な合併症を防ぐ目的があります。
- BRVO(網膜分枝静脈閉塞症):範囲が狭い場合はレーザー不要なこともあるが、虚血範囲が広ければ実施
- CRVO(網膜中心静脈閉塞症):広範囲虚血が生じやすく、レーザー治療が重要な鍵となる
8. 失明リスクと合併症対策:増殖網膜症・新生血管緑内障とは
RVOが進行すると、血流不足の網膜は「酸素や栄養が足りない」とSOSを出し、新生血管を生やそうとします。しかし、新生血管は脆弱で破れやすく、出血や網膜剥離を引き起こし「増殖網膜症」と呼ばれる重症状態に陥ります。さらに、新生血管が虹彩や隅角(目の排水路)に入り込むと、房水の流れを阻害し新生血管緑内障を発生させ、急激な眼圧上昇で激しい痛みと失明リスクを伴います。
こうした合併症を防ぐために、早期治療が欠かせません。
9. 生活習慣改善による予防とアドバイス
RVOは血管トラブルが背景にあるため、生活習慣改善が予防につながります。
- 血圧コントロール:高血圧は動脈硬化の大きな要因
- 食事改善・運動:適正な体重・血糖・血脂質コントロール
- 禁煙:喫煙は血管を硬くし、詰まりやすくする
また、RVOは脳梗塞や心筋梗塞など他の血管イベントと関連することが指摘されています。網膜に血管事故が起きた場合、脳や心臓で同様の問題が起きやすくなるとも考えられます。
特にCRVO(網膜中心静脈閉塞症)を発症した場合は重症であり、再発防止と全身予防に努めることが肝心です。
定期的な眼科検診や健康診断で早期発見が可能な場合もあります。軽度のものは自覚症状がないこともあり、人間ドックの眼底写真が発見のきっかけになることも少なくありません。
10. まとめ
網膜静脈閉塞症(RVO)は、網膜の静脈血流が詰まることで生じる深刻な目の病気です。
BRVO(網膜分枝静脈閉塞症)は比較的症状が軽く、抗VEGF注射で視力が劇的に改善することも多いのに対し、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)は重症で、治療後も視力が十分戻らないケースが珍しくありません。
近年、アイリーア、ルセンティス、バビースモなどの抗VEGF注射により、従来よりも確実な浮腫改善や視力回復が期待できるようになりました。また、レーザー治療による新生血管抑制も有力な手段です。ただし、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)など重症例では反復治療や長期管理が必要となります。
RVO(網膜静脈閉塞症)は全身の血管状態を反映する「目の警報装置」のような存在です。高血圧・糖尿病・高脂血症など生活習慣病への対策、禁煙や栄養バランスを考えた食生活、適度な運動などが発症予防に大きく貢献します。
もしRVO(網膜静脈閉塞症)が見つかった場合は、眼科医の指示に従い、適切な治療を早期に行うとともに、全身的な健康管理にも努めましょう。目はもちろん、あなた自身の健康状態を守るため、最新の知見を活かして視力回復・維持に取り組んでください。
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